不定期連載 さゆみんとわたし 第5回「聖地」

2014年4月29日。人生初めての遠征。

 家からいちばん近い大阪公演に社員旅行が重なって行けなくなり、どうせ遠出するならと思いきって山口に行ってみることにした。

 早朝に出発して、少し観光してから夜公演を観て帰ろう。

 行くと決めてからは荷づくりをしている間も予定を考えている間も、音符マークが出てるみたいに楽しかった。

 

ときわ公園の曇り空の下、それまで自分の部屋いっぱいに閉じこもっていた気持ちを、道重さんが生まれ育ったこの土地に還してあげられた気がした。好きな気持ちがすーっと空気に溶け込んで、どこまでも果てしなく広がっていくような。

 ちょうどその頃、周南市文化会館で道重さんが卒業発表をしていたことは、その次の公演で本人から聞いてはじめて知った。

 大げさかもしれないけど、ここに居合わせるためにわたしのこれまではあったんだと思った。自分の過去すべてに意味を感じられ、感謝の気持ちがあふれた。

 

 2度目は2014年11月2日。

 翌日の広島公演に行くこともできたけど、そのまま山口に残り、ふたたび常盤駅へ。それから宇部駅、下関とを巡って帰ることにした。

 地元でバスに乗ることも不慣れで緊張してしまうくらいなのに、こうして誰もいない無人駅を二度も訪れるなんて、去年のわたしからはとても想像のつかない未来だった。

 もう一度ここを訪れたのは、海を見るため。

 写真集で見た、ふるさとの潮風に吹かれる道重さんの写真がすごく好きだったから。 海を目にして感じたことは、なんとなく自分の心の中だけにしまっている。言葉にしてしまうと何かが損なわれてしまいそうで。それくらい、すべてが完璧だった。

 本数の少ない電車に乗り遅れないよう早めに駅に着き、木製のベンチに座って待つ。

 海に照り返す光。その上の空。木々。大きな飛行機。家の屋根。線路。カーブミラー。ペリカンのイラストが描かれた看板。 葉っぱがカサカサと風に揺れる音。鳥のさえずり。ときどき通り過ぎる車の走行音。

 目に映るもの、耳に聞こえるもの、ここにある何もかもが泣きそうに愛おしく、しずかであたたかなものがすべてを満たしていった。

 不思議な感覚。わたしがここで生まれ育ったわけではないのに。

 

 いつでも目を瞑ると、そこで目にした光を感じられる。音が聞こえる。

 そうすると、とても気持ちがいい。

 心のなかの、道重さんに会える場所。

 

道重さんを思う気持ちは、わたしをいろんなところへ運んでくれたけれど、ここがいちばんのお気に入り。

 

誰にも侵されることのない、わたしだけの聖地。

2014.4.29 - Doing All Write    

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2014.11.2 (23/100) - Doing All Write

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(2015/3/26)