ぼくらが旅に出る理由

横浜でりななんのお別れの会があった昨日、息子を連れてウルトラマンの映画を観に出かけてきた姉は「ひさしぶりにCDを買った」とオザケンの新譜を見せてくれた。「球体の奏でる音楽の!」「そう!」

中学生まで二人部屋で過ごしたため、わたしの土台はほぼ姉の影響で培われている。ユニコーンピチカート・ファイヴフィオナ・アップルマイケル・ジャクソン、クイーン。

ただ、姉はオアシスが好きで、わたしはレディオヘッドが好きで。

姉は名前に月という漢字が入り、わたしの名前には日が入っているけれど、姉が陽で私は陰だといつも思っている。

 

東京でリリスクの現体制でのラストライブが行われた今日、あやちょの一日学芸員のイベントへ参加するべく、わたしは京都の「戦国時代展」へ出かけた。

わたしはあやちょのブログが好きだ。

あやちょのブログには、楽屋でメンバーとふざけて楽しかったことや、友達と出かけたこととなど、出来事と言うほどでもない出来事が淡々と綴られていることが多い。おばあちゃんと出かけたときのブログは、ほんとうに嬉しかったことが最後の「バイバイ!」ににじみ出ていて、こちらまで心があたたかくなった。

そういった、とりとめのないことを幸せだときちんと感じられる感受性や、日常に美しさを見いだせる審美眼に触れてみたくて、今回あやちょに会いに来てみた。

地元の駅の本屋で買った村上春樹の新刊を読みながら、阪急電車に揺られて烏丸へ。

14時からのギャラリー・トークに参加するにはあらかじめ展示を見ておかなくてはいけないので、お昼ごろに到着し、薄暗い照明に浮かび上がる巻物や焼き物や甲冑や刀、肖像画を見てゆく。誰があやちょのおたくさんで、誰が戦国のおたくさんなのか。どちらでもないわたしは、ここにいてもいいんだろうか。

毛利元就の着物に描かれた家紋が顔に見えてかわいいな、といった幼稚な感想しか抱けない自分へ後ろめたさを感じつつ展示室を後にし、イベント会場となる6階へ。

畳の間なので、靴を入れるためのビニール袋をもらう。握手会で荷物を入れるための大きな透明のビニール袋をもらうのとは違って、今日のそれはどちらかといえば神社仏閣寄りだ。待っている間、数名で構成されたおたくさんの輪が昨日のハロコン広島について雑談を交わしていた。アイドル好きというのは、電車に似ているなとよく思う。始発から乗っていたり、途中下車したり、乗り換えてきたり。何となく楽しそうだからと安易に乗り合わせてしまったわたしは最後列の端っこに落ち着き、持ってきた手帳とボールペンを用意する。

白いハイネックに、ラウンドネックの紺色のカーディガン、濃いオレンジのスカートを合わせたあやちょ。

学芸員の方の質問に間髪入れず全て「はい!」とハキハキ受け答えをし、分からないことは「ヒントお願いします!」と即座に助けを求める現・ハロプロリーダー和田彩花。潔く、見ていて気持ちがいい。

あやちょが戦国専門でないように、わたしはあやちょ専門ではないけれど、西洋画への興味からどんどん視野を広げていけるところや、知らないことを知らないと言える素直さなど、見習いたいなと思うところがたくさん見つかった。

 

大好きなマネや仏像の話になると、水を得た魚のようにぐんぐん話に広がりが生まれ、わたしもこんな風に自分の大切な、大好きなものを語れるといいなと思った。

三室戸寺というお寺に一体だけ洋風な顔立ちの仏像さんがいて「何でここにいんのー!?」と思ったというエピソードや、前に見た禅の展示会の印象を「ふにゃふにゃで柔らかい」と表現したり、借りものの言葉でないから伝わるのか、ということも学んだ。

コールも推しジャンもなく、良い聴講だった。あやちょにとってのアイドルは仏像さんだからか、と妙に納得した。

 

土地勘の無いなかでほとんどやけになりながら、次の目的地を目指す。一度行ってみたかった絵本屋さん、メリーゴーランド京都店。

がんばって来てよかったな、と到着して1分もたたないうちに思った。

大好きな中川宗弥さんの絵本を2冊買った。となりの展示スペースで行われていた、ひろせべにさんの個展もすごくおもしろくて、元気をもらった。あやちょの真っすぐさが、わたしをここに連れてきてくれた。

 

京都から大阪への帰り道、思えばいつもどこかへ移動していることに気づいた。

Perfumeももクロエビ中リリスク、道重さん。

アイドルに限らず、どれか一つ出会いが欠けるだけで、この旅は違ったものになっていた。

 

ぼくらが旅に出る理由は、ほんとうにあるんだろうか。

その理由を見つけることこそが、ぼくらが旅に出る理由なのかもしれない。

喜びと悲しみに、今はただ手をふることしかできなくても。