スーパーに行くと必ずお菓子コーナーをチェックするのが、いつの間にか習慣になっている。僕の好きな子が、かわいいお菓子を好きだからだ。
子どものころお気に入りだった駄菓子、最新のアニメやゲームのキャラクターのおまけ付き。所狭しと陳列された商品の中で、とりわけあの子が好きなのは自分で作って食べるタイプの知育菓子らしい。「お菓子コーナーには何歳になっても目がない」と、教室で友だちに話しているのを耳にして、僕も自分の好きなものを好きと堂々と言えるようになりたいと思った。そんな憧れからか、スーパーやコンビニに行くと、吸い寄せられるようにお菓子コーナーに足が向くようになった。
今の知育菓子はこんなにリアルなドーナツを作れるのか...。食品サンプルのようなクオリティのものを自分で作って食べられるというのは、確かに面白いのかもしれない。でも、こういった子ども向けのお菓子をレジへ持っていくことに抵抗を感じるくらいには僕も大人になっていた。でも、一度作ってみたらあの子に少しだけ近づけるかもしれない。意を決して手を伸ばした途端、別の手が当たり、箱が棚から落ちてしまった。
「す、すみません!」
急いで商品を拾い、恥じらいで耳が真っ赤に染まっていくのを自覚しながら視線を上げると、そこには舞ちゃんがいた。お互いの目に、それぞれの驚きの表情が映っていた。卒業式ぶりの再会がよりによってこんなシチュエーションだなんて。いたたまれなさと嬉しさの狭間で必死に言葉を探していると、
「かわいいお菓子、好きなんだネ。」
と、舞ちゃんが沈黙を埋めてくれた。
「...僕も好きです!」
心臓の音が聞こえるくらいに心拍数が上がっている。何なんだ、僕も好きですって。まずい、バレてしまう。言葉の真意を察してか、舞ちゃんは呆気にとられた表情を浮かべている。
「舞〜、お菓子はひとつだぞ〜!」
永遠に続くかと思われた静寂を破ってくれたのは、竜也こと舞ちゃんのお父さんだった。助かった。
「...もう、わかってるって!」
そう返す舞ちゃんの声は、照れくさそうに怒りながらもどこか弾んでいた。舞ちゃんはほんとうにお父さんが大好きなんだ。
「ご、ごめん...またネ。」
小走りで立ち去る後ろ姿は羽根が生えているんじゃないかと思うくらい軽やかで、僕はいつもその後ろ姿を見届けることしかできなくて。舞ちゃんはどこまでもマイペースに、自分らしく駆け抜けていく。
僕は手にしたままのかわいいお菓子を持ち、晴れやかな気持ちでレジへと向かった。
※この物語は妄想であり、実在の人物、団体とは一切関係ありません。